消えてしまった感触は甦るのか、絹糸をめぐる変化と再生

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布関連の記事が続いたところで、ひとつ布のもとになる蚕のお話を。
蚕のお話

歴史マンガ「風雲児たち」で有名なみなもと太郎さんが、エッセイマンガで書いていたエピソードから。

みなもとさんはマンガ家になるために上京する前に3ヶ月だけ、新入社員として京都の呉服屋で働いていました。

新人が最初に覚える仕事のひとつは、反物を手早く巻くこと。指の腹をうまく使い、シュッと広げた反物をくるくると巻き取って筒の姿に戻していく。最初はぐにゅぐにゅになってしまうのですが、きれいに巻き取りが出来るようになる頃には、指でさわっただけで反物の質を見極められるようになっていたそうです。

その力は今でも衰えず、みなもとさんは百貨店に飾られた着物をつまんで、おおよその値段を当てることが出来るのだとか。

そんなみなもとさんが、上京して30年後、お偉いさんになった呉服屋の同期と再開。一献酌み交わした後、お店の最高級反物を見せてもらった時のことです。

かつてのように指の腹と腹で布を触ってみたものの、何か期待していた感触と違う……。

これは本当に最高級品なのかとしつこく聞いたところ、同期から意外な答えが返ってきます。

それは「桑の葉が化学肥料栽培になったんや」というもの。

「もうあんな布地はどこにも無いよ」という言葉を聞き、かつての布地を懐かしむみなもとさん。

これを読んだ私は、もう彼らが懐かしんだような布は生まれないのだと思って、少し淋しい気持ちになりました。

しかし、この間なんとなく蚕・化学肥料で検索したところ、なんと無農薬・有機農法の桑で蚕を育てている養蚕業者がいるということがわかりました。

その名も「峯樹木園」。

桑の栽培に化学肥料や農薬を使わないことで付加価値を高め、食料品や化粧品などを製作。もちろん、絹糸も製造していて、その糸は繊度が細く光沢のある美しい白色なのだとか。

どんなすばらしい素材や技術も、環境の変化によってなくなってしまうことがあるというのを私たちはよく知っています。

でも、時にはこうやってそれを甦らせてくれる人たちもいて、それはなかなかワクワクする話だな、なんて思いました。

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