世界でもっと有名なウサギの1匹であるピーターラビット。
今回は季節外れ承知で、その作者であるビアトリクス・ポターが描いた冬の日の暖かい物語をご紹介します。
あるところに、年老いた仕立屋がいました。
貧しい仕立屋はあたりにちらばる裁ちくずを見て、「あまりで出来るのはねずみ用のものくらい」とつぶやくのが常で、いつも貧しい生活を強いられていました。
そんな仕立屋は、クリスマス前に市長が結婚式で着る上着とシャツという大仕事を任されます。
しかし、彼は直前になって体調を崩してしまい、布を裁ったところで床にふせってしまいます。
すると、そんな仕立屋を物陰から見守っていたネズミたちが、立派な上着とシャツを塗ってくれたのです。
お話は「こびとのくつや」によく似た、とてもシンプルな内容。
よく働き、小さなものをないがしろにしない職人が、知らぬ間に小さなものに助けられ、仕事をやりとげ裕福になるというお話。
この物語にはビクトリアス・ポターによる挿絵がついていて、これがとてもすばらしい。
ネズミたちが懸命に縫った刺繍は、まるで写真のような正確さですが、一方で絵画だからこその品の良さもあり、いつまでも眺めていたくなるのです。
ポターはとても観察を大切にした人で、多くのスケッチを残していることもよく知られていますが、本作はそんなポターの描写力が動物や自然のほか、布や刺繍の描写にも活かされています。
手にすると、少し贅沢な気持ちになり、仕立ての服に対する憧れをかき立てられる美しい1冊です。
※画質はいまいちですが、青空文庫で読むことも出来ます。