アナログな制作の現場が妙に懐かしい「三原順 All Color Works」発売記念原画展と「薔薇はシュラバで生まれる」

コラム

今回はちょっと個人的な経験からのお話を。新型コロナウィルスによる移動の制限が本格化する直前、3月の末に訪れたマンガの原画展と、最近発売されたマンガの話です。

東京の京橋で行われたその展示は、1970~90年代に活躍した三原順というマンガ家の原画展でした。

三原順は1973年に少女マンガ雑誌「別冊マーガレット」でデビュー。以降、原発、カウンセリング、裁判、精神病理など、社会のさまざまな問題をマンガを通して描いてきました。

こう前置きするとちょっと堅苦しい感じを受けるでしょうが、精緻でかわいらしいイラストと、生意気だけど、感情的に、自分らしく生きようと四苦八苦する登場人物たちは、当時の読者に高い人気を得ていました。三原順は1995年に病気で急逝しますが、今でも多くの人の心に残るとともに、新しい読者を獲得し続けています。

今回の原画展はそんな彼女のフルカラー画集「三原順 All Color Works」を記念して行われたもの。精緻なイラストに多くの人が心を奪われていました。

原画展に飾られていたものではありませんが、三原順の作品の一部をお見せします。猫の毛の感触まで伝わってくるような画のすばらしさを、原画展ではたっぷり味わうことができました。

そして、この原画展の少し前に「薔薇はシュラバで生まれる―70年代少女漫画アシスタント奮闘記―」(笹生那実)というエッセイマンガが出版されました。70~80年代当時のマンガ家の現場をアシスタントの立場から描いたこの作品には、三原順とともに、美内すずえ、山岸凉子、樹村みのり、くらもちふさこら多くの少女マンガ家が登場します。

徹夜続きでイスに座りっぱなしのハードな仕事の後、皆でマンガの話をしたり、怪談話で眠気覚ましを試みたり、マンガ家同士で助け合うようにアシスタントしあったり。女性たちがワイワイおしゃべりしながら一つの作品を作り上げていく様子が、大変そうだけれどとても楽しそうに描かれています。

本書の最後では、現在のマンガ家たちが集まって、昔話をしているところで終わります。「今はデジタルで作業をするので、昔のようにみんなで集まって描くことはない」という現場もあり、数十年で作業環境が大きく変わったことがわかります。

本作は今年の2月、新型コロナウィルスが日本で問題になり始めた頃に発売されました。初めて読んだ時は、泊まり込みの原稿生活を昔話のような気持ちで読んでいましたが、生活が否応なしに変わってしまい、人と会う機会も減ってしまった今、その姿が妙にうらやましく見えます。

リモート生活になっても、人とおしゃべりする楽しみや、情熱を共有することで生まれるパワーは失わずにいたいと強く思わされるのです。

過去の情熱的な時間を知ることで、改めて今を見つめなおせるような展示と作品でした。

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