現代のわかりづらさ、複雑さを示すヨコハマトリエンナーレ2020

スタッフの体験

2020年7月17日、ヨコハマトリエンナーレ2020が開幕しました。

 

新型コロナウィルスの影響により、本来の会期より2週間遅れての開幕となった本展。アーティスティック・ディレクターであるインド人アーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」の3名は、会場を訪れることなくこの芸術祭を作り上げることとなりました。

 

今回のトリエンナーレのコンセプトは「AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」。

 

今回の芸術祭では、「独学──自らたくましく学ぶ」「発光──学んで得た光を遠くまで投げかける」「友情──光の中で友情を育む」「ケア──互いを慈しむ」「毒──世界に否応なく存在する毒と共存する」という、コンセプトを深めるための「ソース(source、 源泉の意味)」と呼ばれる5つのテキストが掲げられました。

 

抽象的なテキストですが、はからずも「毒──世界に否応なく存在する毒と共存する」という言葉がこの状況において奇妙なリアリティを持ってしまったように思います。

 

会場は横浜美術館とプロット48。どちらも桜木町駅から少し歩いたところにあります。

 

私が横浜美術館を訪問したのは8月1日。新型コロナウィルスの影響か、心なしか人通りの少ないみなとみらいを歩くと、シンメトリーの石造りの建物は黒いカーテンにおおわれていました。

 

これはイヴァナ・フランケによる「予期せぬ共鳴」という作品。堅牢で安定した印象をもたらす横浜美術館の建物を、どこか不安定で不気味なものにしていました。

今回の展示は30分120人の人数制限あり、事前予約制のため、入り口でQRコードを掲げる必要があります。携帯を持っていない場合は、発行したQRコードをプリントして持っていく必要があるという体制になっていました。新型コロナウィルス下での開催において最大限配慮した結果でしょうが、携帯もしくは印刷環境がないと美術館に入れないというのは、こうした公共性の高い施設においては本来あってはいけないと感じました。

 

ヨコハマトリエンナーレ終了後の展示では、できればそうした電子機器にアクセスできない人でも入場できるようにしてほしいと思います。

 

入場入り口には全身の熱を図る測定器が用意されています。横のスタッフに促されながら入場。

 

最初に迎えてくれるのはニック・ケイヴのインスタレーション「回転する森」。

キラキラしたおもちゃのようなモールが回転するさまはとてもかわいらしく美しいですが、よく見ると銃や弾丸の形をしたモチーフが紛れ込んでいます。一見華やかでSNSウケのよさそうなモチーフの連続と見せかけて、そこに毒……社会の病理がまぎれているのです。

今回の展示では社会問題をダイレクトに反映させたものや、時間をかけて映像を見せる作品が多く、それはどんどん複雑になっていく社会のあり方をアーティストが何らかの形で作品に反映させたいという格闘の後にも見えました。

 

ほかに、精神疾患の妹の精神世界についてインタビューした映像と、日本で精神疾患を持つ人々がどのように扱われてきたかをインタビューした映像を組み合わせた飯山由貴の作品「海の観音さまに会いに行く」。仏教説話を下敷きに、放射能汚染後の世界を描くパク・チャンキョン「遅れてきた菩薩」。街中を清掃する姿を撮影し、清掃にまつわる文脈と組み合わせ、差別や暴力を浮き上がらせる岩井優の「彗星たち」。

西洋教育に反対するグループの襲撃を受けながらも学校に通い女生徒たちの姿を記録したラヒマ・ガンボの「タツニヤ(物語)」などなど……。

そうした社会に対する問題意識を強く感じさせるもののほか、私たちを別世界に連れて行ってくれるような不思議なモチーフを具現化させた展示もありました。

 

腸をイメージしたというエヴァ・ファブレガス「からみあい」。

エビをセクシーな気持ちにさせるというエレナ・ノックス「ヴォルカナブレインストーム(エビのためのポルノ)」。

ロシア宇宙主義という思想を映像によって表現するアントン・ヴィドクルの「宇宙市民」「これが宇宙である」などは、まるで別世界に迷い込んだような気持ちになりました。現代美術の面白さに、異世界を視覚的、感覚的に体験する快感があると思いますが、これは本展でも十分に発揮されていたと思います。

 

また、今回の展示の大きな特徴の一つに、展示解説が3段落に分かれていることあります。1段目はキュレーターであるラクスのコメント。2段目は作家自身のステイトメント。3段目に解説という独特の表現をとっています。

いわゆる解説と同時に、詩とも散文ともつかない不思議な言葉が添えられることにより、受け手側の感性を解放させてくれます。

 

言葉にできない、簡単には理解できないものが隅に追いやられがちな社会の中で、こうした不思議なもの、複雑なものを展示し、私たちの精神にゆさぶりをかけたり、解きほぐしててくれたりする空間はとても貴重です。

 

心が落ち着かない日々の中、自分の心を解放させたい人は横浜を訪れてみてはいかがでしょうか?

ヨコハマトリエンナーレ2020
会期:2020年7月17日(金)~10月11日(日)
会場:横浜美術館、プロット48(みなとみらい21中央地区48街区)、日本郵船歴史博物館
開場時間:10:00~18:00(入場は閉館30分前まで)
休場日:木曜日(ただし7月23日(木)、8月13日(木)、10月8日はのぞく)
料金:一般 2,000円、大学生・専門学校生 1,200円、高校生 800円、中学生以下 無料
※チケットは日時指定の予約制。
※会期中の金曜・土曜と会期最終日の10月11日(日)は20:00まで開場。
※10月2日(金)、10月3日(土)、10月8日(木)、10月9日(金)、10月10日(土)は21:00まで開場。
HP:https://www.yokohamatriennale.jp/2020/?gclid=Cj0KCQjw9b_4BRCMARIsADMUIyrLP8Wl66n3tS2hpbmEkrJ70nrVDyO5JflnJEJVQtFtRxZxj8zukDMaAtKcEALw_wcB
Youtube:https://www.youtube.com/channel/UCfnsw_LZ4iolnjEdyLZbXEA
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